自己破産とは言葉は非常に有名です。メディアでもよく目にするし、漫画や映画、TVドラマなどの娯楽作品にも頻繁に登場します。
ただ、良く世の中で使われる分、「自己破産すると選挙権が無くなる」というようなデマも広がりやすく、誤って理解している人も多い印象です。
自己破産とは
自己破産とは、破産手続きの一つです。借金のある人(債務者)が自ら申し出て破産するから、自己破産なわけですね。
破産することで、債務(借金、負債)はなくなりますが、代わりに資産も失います。
破産手続きとは、債務と資産を相殺する手続きということが出来ます。
相殺した結果、債務の方が大きくても、それは免除になるので借金が消えるわけですね。
自己破産ができる条件
自己破産ができる条件は、自分に借金返済能力がないことです。
この条件は、返済のための資力(収入)が前提となる任意整理や個人再生と、自己破産が大きく違うところです。
ざっくり言うと以下のような特徴があります。
- 任意整理、個人再生:収入があるほど債務整理が成功しやすい
- 自己破産:収入が無いほど債務整理が成功しやすい
自己破産が必要になる借金は一般的に1,000万以上くらいの金額がイメージされていますが、本来は決まった金額はありません。
2000万円の借金でも返せる人はいますし、300万円の借金が返せない人もいます。具体的には手取り収入から住居費を差し引いた金額の三分の一を返済に回すとして、3年間で分割返済できれば返済能力ありとみなされるのが一般的です。
収入がない、のみでは成立しないケースも
基本的には借金額に対して、収入が小さくかつ資産もなければ自己破産は成立するのですが、一部には例外もあります。それは、借金がある人が信用があって、お金を金融機関から借りることが出来るような状況では、自己破産は成立しないのです。
自分でお金を調達して、返済できるわけですから、資力がないとは言えないって判断になってしまいます。
自己破産のメリット
借金がなくなる
自己破産の最大のメリットは、借金がなくなることです。債務の免責(責任がなくなること)などとも呼ばれますね。
これはすべての借金がなくなるため、経済的には非常に大きなメリットです。
借金を減らす、債務整理の方法として自己破産と並んでメジャーな手段である任意整理は、借金の一部は返済していかなければなりません。任意整理の借金返済は、数年(3年程度)間の分割で返済し続けるため、経済的には多少苦しい期間が続きます。
それに対して全額の借金がなくなる自己破産は経済的には最も有利な選択といえるでしょう。
強制執行されなくなる
自己破産すると強制執行されなくなります。破産債権の回収は破産手続きをすべて通さなくてはならなくなるので、一旦は守られるわけです。
国税局による税金の滞納の徴収も停止されます。
これは任意整理にはないメリットです。
関係者の調整が楽
任意整理の場合、債権者全員の合意がないと債務整理が出来ません。しかし、自己破産は問答無用の破産なので、債権者との調整が必要ありません。
裁判所の関与のもとに、粛々と処理が進んでいきます。
また、任意整理だと裁判所を通さない分、債権者から実は資産を隠しているのではないかと疑われることがあります。一方、自己破産は裁判所が間に入っている以上、資産を隠している可能性は低いとみなされます。
一定の財産が合法的に残せる
自己破産したからと言ってすべてお金が取り上げられて、文字通り無一文になるわけではありません。破産者の財産のうち、破産財団を構成する資産だけが債権者に取り上げられることになります。
現金なら99万円まで残すことが出来ます。
自己破産すれすれの生活をしていたら、すべての財産を債権者に取り立てられるわけですから、99万円でも手元に残せればかなり有利です。そのお金を使って生活の再建に役立てましょう。
これは破産法34条3項1号に規定されており、法定自由財産と呼ばれます。
他にも手元に残せる財産として、差し押さえ禁止動産として以下のものがあります。
- 債務者の生活に必要不可欠な衣服、寝具、家具(TV、エアコン、冷蔵庫、タンスなども必要不可欠と認める判決がある)
- 生活に必要な一か月分の食料、および燃料
- 2か月分の必要生活費(現在の水準だと66万円)
また差し押さえ禁止債権として以下のものも手元に残せます。
- 給料、退職年金および賞与の四分の三が差し押さえ禁止(ただし33万円以上になると別途制限あり)
- 年金給付を受給する権利
- 失業保険を受給する権利
費用も割と安いし分割可能
自己破産の費用は、ほとんどの人が利用する同時廃止(財産がない人向けの自己破産方法)の場合は35万円程度で利用可能です。
財産の処分などで時間がかかる管財事件や少額管財事件ではもう少し費用が掛かりますが、(お金がないから相談に来ているわけなので)弁護士事務所では費用の分割払いに応じてくれますし、初期費用ゼロ円で相談に乗ってくれます。
自己破産のデメリット
職業が制限される
自己破産して破産者になると、仕事の種類が制限されます。以下に破産者がつけない仕事を挙げます。
- 警備員(警備業法14条1項)
- 建設業者(建設業法8条1号)
- 宅地建物取扱業者(宅建業法5条1項1号)
- 生命保険募集人及び損害保険代理店(保険業法279条1項1号)
このように、信用力が求められる職業には、それに係る法律が存在します。その法律によって破産者は、その職業に就くことが出来ないと定められているので、職業が制限されてしまうことになります。
任意整理では、民事上の和解なのでこうした制限はありません。
自己破産して借金がなくなっても、収入を得る手段がなくなったら今後困るので、上記の職業で稼ぎたい方は任意整理を利用しましょう。
自宅が取り上げられる
破産した場合、マイホームは手放さなくてはならなくなります。
自宅を換金して、債権者に借金返済しなくてはならなくなるからですが、これは住む家が取り上げられるという大きな負担です。
また、家を換金しても、中古物件であるため、思うような値段で売れない可能性は高いです。せっかく手に入れた家を、安い値段で手放すのはなんとも悔しいものです。
破産を勤務先に知られる可能性がある
自己破産すると、破産者として官報に公示されます。
国立印刷局のwebサイトには、官報が一定期間載せられているため、調査している会社には自己破産はバレやすくなっています。
企業によっては、かなり例外的ですが、官報を定期的に調査しているほか調査機関に依頼するケースもあります。
ただし、この可能性は実際にはかなり薄く、官報を頻繁に見えいる会社はほとんどありません。
通常はあまり心配しなくて良いでしょう。
自己破産の流れ
ここまでで、自己破産のメリットとデメリットを見てきましたので、ここからは実際に自己破産を行う場合の流れを確認しましょう。
1 借金が返せない状況に陥る
自己破産を行うには借金が弁済できない、支払い不能状態であることが大事です。
2 弁護士に相談する
自己破産を自分でやることは、不可能ではないのですが、債権者とのトラブルが想定されるため弁護士に依頼するのが基本です。
重要な書類が20種類以上あり、記載ミスがあったら免責してもらえなくなるので、よほど自身のある人を除いて弁護士に依頼しましょう。
お金が無くても分割や法テラスからの借り入れが可能なので、心配しなくて良いでしょう。
3 破産手続き開始の申立て
弁護士に相談したら、今度は裁判所へ「破産手続開始申立書(免責許可の申立)」を提出します。提出先はどこでも良いってわけではなくて、債務者が済んでいる地域を管轄する地方裁判所になります。
提出書類
- 破産手続き開始申立書
- 陳述書
- 債権者一覧表
- 財産目録
- 住民票
- 戸籍謄本(全部事項証明書にしましょう)
4 裁判所からの呼び出し:審尋
破産手続開始の申し立てを行ってから約一か月後に裁判所から呼び出しがかかります。
そこで、自己破産に申立の内容について裁判官から質問を受け、支払い不能状態なのかどうかチェックを受けることになります。
5 破産手続開始決定
無事に裁判所から認められたら、いよいよ破産手続きが開始します。
この段階で破産申立人は破産者となりますが、破産者となるのは一時的なのであまり心配しなくて良いです。
裁判所から各債務者に破産手続を開始したとの連絡が行きます。
この段階で、20万円以上の財産があれば「管財事件」なければ「同時廃止」というように、処理方法が変わります。
図にすると上のような、イメージです。
6 官報への破産手続開始決定の公告
破産者となったら官報に掲載(公告)されます。
2週間以内に高等裁判所へ公告が無ければ、破産手続きの開始が確定します。
7 破産手続開始決定の確定
(債権者が破産手続開始の申立をすると)破産手続開始決定が確定してから一か月以内に、免責許可の申立をすることになります。
8 免責許可の申立
免責許可の申立は、3の「破産手続開始申立書」を行うことで自動的に申し立てたことになるので、特段手続きは必要ありません。
債権者は免責について意見を述べることが出来るので、反対される可能性がある。ただ、債権者側の意見が通ることは少ないですので、安心してください。
9 2度目の審尋
免責許可の申立に対する裁判所のヒアリングは、実は破産法上では必要とされていません。
しかし、旧破産法時代からの慣習で、現在も行われているようです。
10 免責許可の決定
いよいよ借金が免責(免除)されるか判断されます。自己破産の可否がここで決まるイメージです。
免責許可が決定された場合
・申立人と債権者へ借金が免責されたことを通知
免責が不許可になった場合
・高裁に即時抗告する
11 免責確定
やっと免責が決まりました。
自己破産に対するよくある誤解
自己破産について、以下のような誤解があります。
- 自己破産すると選挙権及び被選挙権がなくなる
- 戸籍や住民票に破産の事実が公表される
これらは代表的な自己破産のデメリットに対する誤解ですが、いずれもそんなことはありません。
他にもいくつか悩ましいポイントがあるので、見ておきましょう。
誤解:ギャンブルの借金は絶対に自己破産できない
ギャンブルによる借金は自己破産法で定められている免責不許可事由(自己破産できない理由による借金)になっています。ただし、借金の発端がギャンブルでも、その後家計が火の車になって、自転車操業的に借り入れが増え続けた場合は、自己破産できる場合もあります。
また、免責不許可事由は裁判所が柔軟に解釈する傾向があるので、自己破産をあきらめる必要はないともいます。
誤解:自己破産すると、家族や恋人にバレる
自己破産は裁判になるので、家族や恋人に知られてしまうと思っている人もいます。
確実に知られないとは言えないのですが、普通は家族や婚約者にも内緒で自己破産できます。
なぜなら、自己破産を申し立てで裁判所に出廷しなくてはいけないのは、破産手続き開始時(一番最初)と免責許可の審尋(最後に自己破産が認められるとき)の2回だけです。
そのため、ほとんどバレることはないと考えて良いでしょう。
自己破産は内緒で出来るか?名字が変わればブラックから抜け出せる?
誤解:外国籍だと自己破産できない
日本には在日朝鮮人の方をはじめ、多数の外国籍の人が済んでいます。昔の旧破産法では、その人の母国の法律に基づいて破産制度を適用するという観点があったので、外国籍の人は自己破産できない(できるかわからない)と思われていることもあります。
しかし、現在の裁判所では、外国籍の人でも、支払い不能状態にありかつ免責不許可自由に該当しなければ、日本人と同様に自己破産を認めています。
誤解:自己破産すると子供の将来に悪影響がある
自己破産はイメージが悪く、職業選択が一部制約されるなどイメージから、法律的に不利な扱いを受けて子供の人生にも悪影響があるのではないか、と心配する人がいます。
しかし、親が自己破産したからと言って、子供の進学や就職に悪影響が出ることはありません。
自己破産したことは戸籍には載らないので、お子さんが住民票や戸籍証明書が必要になったとしても、両親が自己破産をしたこと自体が知られることがないのです。
まとめ
- 自己破産は借金が返せなくなった人の最終手段。資産をすべて放棄する代わりに、借金もすべてなくなります。
- 資産をすべて放棄すると言っても、生活必需品は手元に残せるし、お金も99万円までは残せます。
- デメリットとしては、ブラックリストに載って金融取引が制限されるほか、警備員など一部の職業に就くことが制限されます。
- 自己破産しても子供の将来には影響なし。むしろ借金で苦しむ両親の姿を見せずに済む分、自己破産や他の債務整理で借金問題を解決した方が良いでしょう。