住宅ローンを抱えて、失業してしまったりすると住宅ローンが返せなくなります。
そんなとき「じゃあ自己破産するか」ついつい考えがちですが、それは損な考え方です。
ほとんどの場合、自己破産するより住宅の任意売却の方が有利です。
この記事では「任意売却って何?」っていう全く知識が無い人向けに解説していきます。
任意売却とは
マイホームは数千万もする高い買い物なので、購入するときは住宅ローンを借りるのが普通です。
家を買ったときは、十分に返済可能な計画でローンを組みますが、失業や収入の減少など家計の状況というのは変化するものです。
もしあなたが、住宅ローンの返済が滞納してしまうような状況になったとします。
住宅ローンの滞納が6~8か月ほど続いてしまうと、多くの場合はマイホームが競売に掛けられ、売られてしまいます。
その売却代金をもとにマイホームローンを返済に充てられることになりますが、そもそも競売というのは実際の市場価格より安い値段で売られてしまう傾向があります。
そこで、家賃の滞納が続き、家を手放さざる得ない状況なら、任意売却という手段を検討すべきです。
任意売却とは、ローン支払いが不可能になった不動産について、競売とは異なり実勢の市場取引において売却し、売却金をローン残高(残債)の返済に充てる手続きのことです。
自宅を高い価格で売れるので、競売に比べて、マイホームローン(借金)がより圧縮できる制度ってことですね。
ここでは、任意売却と競売を比較した場合のメリットやデメリットについて解説させていただきます。
任意売却のメリット
任意売却と競売を比較すると、以下のようなメリットがあります。
競売よりも高い値段で売れる
第一に、競売よりも任意売却のほうが高い値段で物件を売ることができます。
競売の場合は裁判所が売り出し価格を決めるため、市場価格の5割程度の値段しかつかないこともあります。裁判所は高く売ることよりも早く売ることを優先するのです。
高く売れる、ということはそれだけ負債の残金が減る、ということです。
仮に、競売になると、最初の売却基準額は、不動産の価値の7割程度での入札となります。
一部の不動産投資家は、競売は安く買えるっていうことで、人気があります。
ということは、逆に言えば競売で売ったら損ってことですね
負債の残金が減るっていう意味は、任意売却完了後に残る借金を少なくすることができますので、できれば任意売却による売却を選択したいところです。
もし、希望の金額で買い取ってもらえる買主と出会えれば、住宅ローンを完済することも夢ではありません。
そうなれば、これまでマイホームの返済に回していたお金は、家賃を払って賃貸していたのと同じような効果になるので、ダメージを最小限に抑えられますね。
また、住宅ローン残金よりも高額で売れれば、逆に手元にお金が入ってくる、という可能性もあります。
債権者側との残債務の交渉が柔軟に行える
任意売却のメリットとしては、自宅売却による借金返済を行った後に残る残債務(マイホームローンの残り)の返済条件が有利になることが多いです。
任意売却による物件の売り出しを行う時点で、法律の専門家に依頼して交渉してもらうので、債務者側の事情が反映されやすくなります。
遅延損害金分の残債務が免除になるなど、多くの場合は競売を選択した場合よりも有利な返済条件を取り付けることができます。
競売は残債務の返済条件が厳しい
競売を選択した場合には、不動産売却後の残債務が多くなる分返済条件が厳しくなります(毎月の支払額が多くなります)。
多くの場合は債権者側から一方的に毎月の返済額を指定されてしまい、交渉の余地がないケースが多いです。
不動産を売却した後の残債はいわゆる「無担保ローン」となります。
債権者側としてもお金が返ってこないリスクが高くなるため、返済が滞ったときには銀行口座の差し押さえなどの方法を取ってくることがあります。
破産者としてではなく、通常の不動産の売り主の立場に立てる
破産者として、債権者(住宅ローンの貸し手である銀行など)に対峙するのは、心理的な負担が大きくなります。
しかし、任意売却では通常の不動産取引と同様に、不動産取引の専門業者(不動産業)に依頼して売買を行うので、こちらの立場はあくまで不動産の売り主です。
不動産の売買というのは、交渉によって決める事項が数多くあります。
不動産売買の交渉事項
- 物件の目標売却価格
- 物件売却に係る費用の分担
- 物件の契約日
- 物件の引き渡し時期
特に、物件の引き渡し時期は、いつまでマイホームに住めるのか、代わりの住居はどのように用意しようか、など生活に大きくかかわる部分です。
こうした重要な事項を、不動産の売り主として強い立場で交渉(実際の交渉は不動産会社がやってくれる)できるのが、任意売却の大きなメリットです。
不動産の売り主が、不動産売却で得たお金を、債権者に返済する、という通常の経済活動の一環として行われるので、債務者側にとって主導権が握れて有利な点が多いわけですね。
退去時期を考慮してもらえる可能性がある
競売での処分では、裁判所で決まった日程に沿って粛々と手続きが進みます。競売の落札者がお金を納めたら、もうその不動産に住んでいることができません。
非情と思われるかもしれませんが、「強制退去」です。
しかし、任意売却であれば、次の引っ越し先が決まるまで退去時期を待ってくれるケースが多く、融通がききやすいというメリットがあります。
また、良心的な不動産業者であれば、次の引っ越し先を一緒に探してくれる場合もあります。
仲介業者は、売る側も、買う側もあとでトラブルにならないよう、心を砕いてくれるのですから、競売で追い出されてしまうより、格段に気持ちよく手放すことができます。
転居費用を考慮してもらえる可能性がある
上記のように、心を砕いてくれる良心的な仲介業者なら、引っ越しの費用を売買代金から助けてくれる場合があります。
住宅ローンを払えないほど困っているのですから、転居費用も貯まっていない人がいても、仲介業者は、驚きません。
正直に、転居費用がないと相談してみましょう。
もし、このような相談をして、嫌な顔をする仲介業者であれば、強引に売却を進めてしまうなど、良い仲介業者ではないかもしれません。
良心的な仲介業者を見分けるために、あえて転居費用がないのだと相談を持ち掛けてみるのも一つのテクニックと言えますので、参考にしてみてください。
必要があれば破産費用を考慮してもらえる可能性がある
また、住宅ローンの他にも借金がある場合、破産費用を不動産の売却代金から負担してもらえる可能性があります。
お金が用意できずに破産を躊躇しているのであれば、手出しナシで破産手続きができるチャンスかもしれません。
とてもメリットが大きいので、不動産を実際に売ってしまう前に一度弁護士か仲介業者に破産の意志があることを伝えてみてください。
逆に、破産を視野に入れている段階で、不動産を任意売却で処分してしまうと、破産事件の免責不許可事由に該当する可能性があります。(※注:破産しても借金の返済義務がなくならないという意味です。)住宅ローン以外にも多額の借金がある場合は、うかつに任意売却をしてはいけない場合もあります。
破産を考えている方は、まずは弁護士に相談してみる、ということを検討してください。
任意売却のデメリット
競売に比べるとメリットの大きい任意売却ですが、デメリットについても確認しておきましょう。
自分で不動産業者に依頼する必要がある
まず、任意売却の手続をする際には借金を負っている人自身が業者に相談に行くなどの動きをする必要があります。
この点、競売であれば債権者側が裁判所に申し立てて手続をどんどん勝手に進めていきますので、債務者側としては特にやることはありません。
ご近所に任意売却であることが知られてしまう
不動産物件の買い手にとって、「なぜ前に住んでいる人はこの家を手放すのだろう?」ということは気になるものです。
住宅ローンの返済ができず、任意売却によって不動産の売却を行いたい状況ということは買い手側に自然と知られてしまう可能性はあります。
また、近隣のアパート等を借りていた人が不動産物件の購入のためにあなたの物件を見に来るという可能性は高いと言えます。
任意売却を選択する場合には、あなたがローンの返済に失敗して物件を手放す状況にあるということを知られてしまうことは覚悟しておく必要があります(もちろん、これは競売の場合も同様なので、むしろ任意売却の方がマシとも言えます)。
要注意:任意売却には債権者、連帯保証人の合意が必要
任意売却を行うためには、保証会社などの債権者に加えて、連帯保証人となってもらっている人の同意も得る必要があります。
問題となるケースとしては、住宅ローンの連帯保証人として「別れた妻」などが設定されている場合があります。
離婚した配偶者と連絡を取るのは大変なものです。
相手が警戒してすぐに電話に出てくれない、などというケースは良くあります。
このような場合には、なかなか連絡を取ることができず、そのまま競売手続きに移行してしまうということも珍しくはありません。
自己破産をすることになっても心配無用
任意売却後にもローンが残るケースでは、その後の返済ができずに結局自己破産に至るケースも残念ながら少なくありません。
このとき、自己破産の前に行った不動産の売却行為が、1人の債権者に対してのみ有利な扱いをした偏頗返済(へんぱへんさい、といいます)とみなされてしまうリスクが指摘されることがあります。
偏頗返済があると裁判所に判断されてしまうと、自己破産の免責が認められないということもあります。
参考:自己破産ができないケース
しかし、任意売却しても自己破産はできます。
なぜなら、任意売却によって得たお金はマイホームローンの貸し手(通常は銀行)への返済に回されます。
仮に任意売却をしない場合、家が競売に掛けられた資金は、家に抵当権を付けている銀行への返済に回されます。
お金の種類 | お金の返済先 |
---|---|
任意売却の資金 | 銀行 |
競売の資金 | 銀行 |
任意売却にせよ、競売にせよ、どちらにしても銀行がその資金を得る構図になっていることが分かります。
そのため、任意売却しても偏頗返済にはならず、将来自己破産する場合も問題なしです。
不動産業者を選ぶ時の注意点
任意売却をしたい場合、まずは不動産仲介業者を探す必要があります。
不動産屋といえども、自社物件の売却を主に取り扱っている業者、競売物件の売買に強い業者、中古住宅の売買に強い業者、など様々です。
リフォームやリノベーションをして再販売している業者なら、中古物件の取り扱いは当然得意としています。
不動産業者がたくさんあってどうすればいいかわからない、という場合は、次の4点に注目して不動産業者を選びましょう。
- 不動産協会等団体に加入しているか(「ハトのマーク」=社団法人全国宅地建物取引業協会連合会もしくは「うさぎのマーク」=社団法人全日本不動産協会)
- 社長が宅地建物取引主任者であるかどうか(違う場合は名義貸し業者の可能性あり)
- 事務所に「宅地建物取引業者免許証」が掲示されているかどうか
- 宅地建物取引主任者免許証番号(例「国土交通大臣免許[10]〇〇号」)の[ ]内の数字が更新回数なので、参考にする。(数字が大きい方が歴史の長い業者です)
弁護士や司法書士に相談するのも〇
自分で不動産業者を調べてみてもよくわからない、なんとなく怖いという方は、弁護士や司法書士に相談する、というのも一つの手です。
というのも、弁護士であれば、多数の破産事件で不動産を手放す案件に関わっていますから、任意売却に強い弁護士を知っているでしょうし、相談者さんの負債が何かしらの債務整理(法的整理や任意整理)が必要な状況かを相談することもできます。
また、司法書士であれば、不動産登記のプロなので、不動産業者と多数関わりがあります。
簡易裁判所への代理権のある司法書士であれば、弁護士と同様に破産や債務整理を依頼することもできるからです。
任意売却のメリット・デメリットについてのまとめ
以上、任意売却と競売を比較した際のメリットやデメリットについて解説させていただきます。
任意売却は競売に比べると手間も多く、スピード感をもって手続きを進める必要がありますが、物件の売却価格はほぼ市場価格で成約できるという大きなメリットがあります。
すでに金融機関や保証会社から競売の申立をされている状況の場合には任意売却を選択する余地はありません。
ですが、まだ時間的な余裕があるという場合には専門業者に任意売却の相談することをおすすめします。