誓約書は金銭の貸し借り(借金)問題ではよく登場する書類です。
借金がある人は、誓約書を書かされた、なんて経験がある人も多いと思います。
また、借金問題だけに限らず、不倫問題や、離婚時に養育費、慰謝料問題、就職する時などにも誓約書は登場します。
お金を貸していて誓約書を書いてもらう側も、お金を借りれていてサインする側にも参考になるように作りましたのでご覧ください。
誓約書の基本
誓約書とは
誓約書とは、相手に約束事した内容を紙に書き出した書類で契約書の一種です。
誓約書という書面は実生活であまり見る機会はありませんが、お金を借りる際に金融機関から求められたり、就職した際に会社から誓約書の提出を求められたりする際にかかわりを持つことになります。
誓約書を交わすことで、お互いに(主に制約者側が)その約束事でやっていきましょう、と合意したことになります。
どんな時に書くもの?
誓約書は「取り決めた約束事」について書面にしたものなので、さまざまなケースで使用されます。以下はその一例です。
誓約書を書く代表的なケース
- 金銭の借り入れに関する誓約書
- 配偶者の不倫に関する誓約書
- 入社誓約書
- 個人情報開示
- (他社間や従業員による)機密保持契約
- 入院誓約書
契約書や覚書など、他の書類との違いは?
誓約書と似た書類としてよく挙げられているのが、契約書や覚書、示談書ですが、この違いを簡単に押さえておきましょう。
誓約書の性質は、(契約書の一種ではあるため両社の合意が必要なものの)誓約をする側がもう片方になんらかの義務を負う内容になっています。
そのため、義務を要求する側が一方的に書面を作成して、要求される側が相手に誓約書を差し入れるという契約方法をとります。
このように、一方だけが債務(義務)を負担する契約を片務契約といい、誓約書は片務契約に該当します。
契約書とは
一方、一般的な契約書は、どちらか一方ではなく双方の権利義務に関して取り決めを行い、合意して作成する書面です。
誓約書に比べて、両者の関係は対等に近いといえます。
借金で言えば、金銭消費貸借契約書が結ばれますね。
「これは片方がお金を貸します。もう片方が利子を付けてお金を返します。」というある意味平等な契約なのです。
だから(作成はどちらか片方が行うことが多いですが)、両者でチェックして合意の上で文面が決まります。
双方の立場が、お互いがお互いに対して義務(債務)を負う点が誓約書と違うところです。契約書のように、当事者のどちらもが債務を負う契約を双務契約と呼びます。
契約書と誓約書に違いは、債務を負うのが片方か両方か(片務か双務か)という点です。
お金の貸し借りについて、誓約書を書く場合は、債務者側が契約書通りに借金を返済できなかったっていう状態になったからなので、立場的にお金を借りている方が弱くなっています。
だから誓約書で対応するわけですね。
覚書とは
契約書と似たような使い方をするものに覚書というものがありますが、なんとなく契約書より軽そうっていうイメージを持っている人が多いと思います。
そのイメージは大体正しくて、覚書とは簡単な合意書面のことを指します。
後で証拠にできるように事実や会話に基づいて作成された文書で、正式な契約を結ぶ前の段階に使用されるような使い方をされます。
また、契約は成立しているが、あまり重要でない事項について一部変更があったりする時などに使用されることもあります。
覚書は誓約書や契約書と違い、補助的な役割を持った書面とも言えます。
借金問題の場合の覚書は、少額な借金の借用書の代わりに用いられることが多いですね。
示談書とは
示談書については、一般の人は交通事故などに遭遇した時に目にする機会があるでしょうが正式な役割を理解している人は少ないです。
示談書は、合意した内容を文章にしたものということができます。
示談書の性質は、誓約書よりも契約書に近く、双務契約です。
契約書や誓約書との一番の違いは、交通事故などの民事上の紛争に関する書面だということです。
示談書を作成するケースとしては、交通事故など相手に損害を与えたケースで損害賠償請求などが発生するケースが挙げられます。
損害賠償の必要性が出た場合に、当事者の間で話し合って損害を穴埋めする妥協策を見つけ、その内容を書面に起こしたものが示談書と言われる書類です。
誓約書のメリットとデメリット
ここから契約書に戻って、そのメリットとデメリットを見ていきましょう。
誓約書のメリット
誓約書を相手に書いてもらうメリットは、約束事を書面に残すことによって紛争時に裁判などで有利になれるだけでなく、相手に対して「法律上の効果がある約束をしましたよ」と心理的圧力をかけられる点です。
書面に残すことで合意したことの証拠になるってことですね。
日本の法律では口頭で合意しただけでも契約が成立しますが、口頭契約では往々にして水掛け論になりがちで、誓約書を残しておくことによって「言った」「言わない」の水掛け論を予防することができます。
また、誓約書は片務契約であるため法律関係が単純で、雛形に沿って作成すれば自分でも作りやすいこともメリットです。
反対にお金を借りたりして自分が誓約書を書く側になった際は、「(借金返済などの)約束を相手と交わした」ことを強く意識する必要があります。
借金にも時効がありますが、誓約書を交わすことで、この時効は伸びることになります。
一方で、契約書や示談書などは盛り込むべき内容が複雑になりやすく、なかなか個人レベルでは作ることは難しいと思います。
誓約書のデメリット
誓約書の最大の弱点が、法的拘束力がないことです。例えば「もう二度と不倫関係になりません」という誓約書を交わした後に、配偶者が不倫をしたとしても、誓約書があることを理由に配偶者や不倫相手に法律上有利になることはありません。
不倫による慰謝料の請求のように本来訴訟が必要になるケースでは、「誓約書があることを理由に」裁判なしで慰謝料をとることができるわけではないのです。
誓約書に「不倫した場合には慰謝料を請求する」と記載していたとしても、配偶者や不倫相手が自分から慰謝料を払わなければ、訴訟によって解決するしかないのです。
こうしたケースでは、誓約書の効力は強いものとは言えません。
ただし、借金問題の場合は、「約束すること自体に時効を伸ばす意味がある」ため、誓約書は重要な存在になります。
誓約書の書き方基本編
必ず確認すべき項目
誓約書を作成する時に必ず入れておくべき項目は以下の通りです。
誓約書にサインする側、債務者側としてはよく確認しておくべき事項です。
・当事者の署名と押印(できるだけ実印が望ましい)
・作成日
・事実関係
・債務(約束する内容)
・債務不履行時の罰則
例えば、お金を継続的に返済する、もしもこの約束が破られた場合は違約金を請求する、という内容で合意したとします。
その場合は、上の記載事項を網羅して以下のような内容の誓約書が作られることになります。
平成*年*月*日
A(当事者の氏名)は、平成*年*月*日から平成*年*月*日の間、B(相手の氏名)に金銭を借りたこと認めます(簡単に事実関係を記載する)
毎月〇〇円づつ、総額□□□円返済します。(債務の内容)
もしもこの約束を破った場合には、***円の違約金(遅延損害金)を支払うことをここに約束します。(債務不履行時の罰則)
合わせて押さえておきたいポイント
誓約書の特徴として当事者の片方が債務を負担するという点がありますが、この特徴は誓約する側にメリットがないことを示しています。
一方的に制約するわけなので当たり前ですよね。
契約書のように双方が互いに債務を負担しあうものであればお互いの合意がある状態が普通ですが、誓約書の場合は一方的に債務を負担する側の人には合意する必然性がありません。
誓約書は書く側にメリットがないため、「脅迫行為があった」「署名するように強制される環境だった」といった反論が出やすいということです。
誓約書を作成する側から見れば、こうなることを防ぐことが必要です。
反対に、借金をしていて要求される側から見れば、誓約書を強制的に書かされた場合はそのように主張すべきと言えます。
誓約書は手書きでも効力を持つ?
誓約書の書き方についてはネット上にも雛形はたくさんあるものの、いざ自分で書こうとするとどのように書けば良いか、細かい点でわからないことが出てきます。
例えば「誓約書は手書きでもいいのか」などは代表的な疑問点です。
誓約書は正式な書類なので手書きではまずいのではないか、と思う人もいるでしょう。
しかし、誓約書は手書きのものでもパソコンで作成したものでも、効力に違いはありません。
もともとPCの普及より誓約書のほうが昔からあるわけですから、手書きでは効力がないなどということはないのです。
むしろ訴訟になった場合に、この誓約書が本物であること・合意があったことを証明する必要が出てくれば、直筆であったほうが筆跡などから本人の証明が楽です。さらに署名があれば信憑性は高まるでしょう。
そのため、証拠能力を高めるためには署名と押印があったほうが良いといえます。
会社と個人で書き方が違うの?
会社から誓約書を求められるケースとしては、入社時の秘密保持誓約書、退職時の誓約書の他、業務内容や社内規定に関する誓約書などがあり、特に理系研究職や内部管理系の個人情報を取り扱う部署では特殊な誓約書が要求されるケースがあります。
自分が雇用される側の場合は、誓約書は会社が作成して手渡されます。
ただ、雇用されるというのは弱い立場ですが、誓約書の内容をきちんと理解した上で署名することが必要です。
会社側も誓約してほしいわけではなくて、誓約書の内容を守ってほしいだけなので、誓約書をきちんと確認することは好印象です。
誓約書を作成する側の場合は、内容には注意しましょう。公序良俗に反する内容(失敗したら多額の賠償金を支払う、など)を記載し社員の署名をもらったからといって、その内容は無効になります。
例えば、以下のような内容はたとえ双方の合意があったとしても無効になります。
- 残業を指示された場合は必ず従わなければならない
- 遅刻した日は無給(または罰金)となる
- 不注意で会社に損害を与えた場合は全額賠償する
上記の内容は、あまりにも社員側の負担が大きすぎることや人権侵害にすら該当するため、無効になります。
借金問題で無効になるような誓約書は
- 借金が返せなければ、体を売って返済する
- 借金が返せなければ、AVに出演して返済する
このような申告の人権侵害のような内容が誓約書に書かれていれば、当然無効になります。
縦書きの場合の書き方
誓約書を縦書きで作りたい場合について説明します。
横書きの場合には、上から順に必要な項目について書いていきますが、縦書きの場合も横書きと同じ順番に、右から順に書いていけば大丈夫です。
横書きの場合と特に項目の順番を変える必要もないため、縦書きの場合でもあまり注意すべきことはありません。
ただ日付の書き方については、英数字ではなく漢数字で縦に書くのが正式な書き方とされていますが、誓約書の効力には影響ありません。
ケース別:文例と注意
夫婦間・恋人関係の誓約書の書き方
夫婦とはいえ他人同士なので、契約書を作成することはあります。特に多いのは不倫に関する誓約書です。
実際には以下のようなケースです。
- すでに不倫関係にあることが判明し、配偶者や不倫相手に不倫関係を解消することを求める
- 不倫相手に慰謝料を請求する
- 不倫をした配偶者に対し、二度と不倫をしないことを要求する
また、恋人関係にある場合でも浮気に関して誓約書を作成する人もいるようです。
誓約書だけでは法的効果は弱いのですが、夫婦であれば、民法770条という条文に「配偶者に不貞な行為があったとき」には「離婚の訴えの提起をできる」と定められているため、民法上の効力をサポートしてくれる働きを誓約書に期待できます。
一方で、恋人同士で作成した誓約書を根拠に訴訟で争うことは、恋人間は法律関係では不貞関係が成立しないため難しいとみられます。
訴訟で争うためには法的権利の侵害という事実が必要になりますが、恋人同士の間で法的義務がどの程度認められるかが問題となるからです。
法的効力を期待するという意味では恋人間の誓約書は適さないかもしれませんが、相手に心理的圧力を与えて債務の履行を促すという効果を期待するしかなさそうです。なお、夫婦間の不倫に関する誓約書で押さえておく項目は以下の通りです。
・実際にあった不貞行為についての記載
・配偶者に求める債務の内容(二度と会わない・連絡を取らないなど)
・万が一約束を破った時の罰則(慰謝料で解決するのか、離婚するのかなどの取り決め)
「不貞行為」とは、簡単に言うと不倫のことです。
離婚時の誓約書の書き方
不倫や借金を繰り返す配偶者に対して、その行為をやめてもらうために誓約書を交わす場合、「不倫や借金をやめてない場合は離婚する」という内容を誓約書に記載する場合があります。
その場合、争いが起きた後に離婚届を書いてもらおうとするとまた時間がかかりますし、相手が納得しない可能性もあります。
そのため、離婚を罰則にした誓約書を作成する場合には、作成時に離婚届にも署名捺印をもらっておけば間違いありません。文例としては、以下のような一文を誓約書に加えれば大丈夫でしょう。
「浮気などにより貞操義務を違反し夫婦関係を破綻させるような行為に及んだ場合のために、あらかじめ署名押印した離婚届を**(本人)に差し入れます。万が一夫婦関係を破綻させるような行為に及んだ場合には、**がその離婚届を役所に提出することに対して一切異議は申し立てません。」
養育費に関する誓約書の書き方
養育費については、離婚後に問題となるケースが多く、できるだけ法的拘束力を持つように作成した方がいいかもしれません。
厚生労働省のデータによると養育費の取り決めをしているにもかかわらず養育費を受給できなかった数は約20%もあります。
特に女性が親権をとった場合、シングルマザーとして子供を育てながら仕事もする生活は本当に大変なものです。母子家庭の収入は少なく、金銭的に苦しい状況というのはよく知られています。そうした中、養育費があることで生活も楽になります。
養育費に関する誓約書では、以下の項目を押さえておくことが必要です。
- 親権者の定め
- 養育費の金額
- 養育費が支払われる期限
- 振込先の口座
- 毎月の養育費の他に費用が必要になった場合の取り決め
最後の項目にある「養育費の他の費用」としては、進学の際の受験料や入学金、制服やカバンなどの費用の他に、万が一子供が病気や怪我をした場合の医療費などがあげられます。できれば、誓約書を交わす時点で合意を取っておいた方が無難です。
誓約書の注意点:トラブルを緩和するには公正証書にする
誓約書には法的拘束力はないという弱点があるとすでに説明しました。
そのため、債務を負う側(不倫の例であれば、不倫をした側の配偶者)が「この誓約書はサインすることを強制された」といったことを言い出した場合には、誓約書の効力に疑問が出てしまう可能性があります。
公正証書で弱点をカバーしよう
このような事態をなるべく防ぐために、誓約書を公正証書として残しておくことで、法律上の役割を高めることができます。
公正証書のメリットは、債務不履行があった時にすぐに執行手続きに入れることで、財産の差し押さえなどが可能になります。そのため、先ほどの養育費のケースなどでは公正証書化することで、養育費を確保できる可能性が高まります。
一般的な誓約書には法的効力がないため、もしも債務不履行があった場合には訴訟提起するという流れになります。
しかし公正証書で誓約書を作成することで訴訟を起こす必要がなく、いきなり執行手続き名は入れるのです。この差は大きく、離婚に伴う慰謝料や養育費の支払いなど、債務を履行してもらわなければ困るような契約の場合には公正証書として作成することをお勧めします。
ちなみに公正証書にできるかどうかというのは内容次第であり、また公証役場によっても対応が違うことがあるので、詳しくは公証役場に相談してみてください。
借金している立場としては、公正証書化された誓約書にサインすることは、非常に重い意味を持つので、注意してください。
誓約書に関するまとめ
誓約書という書面は、いろいろなシーンで利用できる書類です。しかし万が一の時に訴訟上の証拠として利用するためには、少し弱い部分もあり、誓約書の内容は工夫すべきです。
誓約書自体に強制力を持たせたい場合には、公正証書として保管することで、その効果を飛躍的に高めることができます。
借金をしている債務者としてして誓約書にサインを求められたときは、内容をよく確認してください。
もしも、署名を一方的に強制された場合にはそれを主張することで、意図していない義務を負わされないように注意しましょう。
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