負債を抱えて困っている人は、保証人になってほしいがために、実際よりも責任が軽いかのように説明したり、自分も正確に理解していないために間違った説明したりすることが往々にしてよくあります。
保証を頼んできた人の説明を鵜呑みにすると痛い目を見る場合がありますから、注意が必要です。
まさに頼んできた人の説明を鵜呑みにしたため、困った状態に陥ってしまった方からご相談がありましたので、ご紹介します。
連帯保証を頼まれた相談「一人親方をやっている親戚から銀行借入の連帯保証人になってほしいと頼まれました。その人から、自宅不動産に担保がついている。もし何かあっても先に自宅が処分されるから、大丈夫。
実際に私が請求を受けることはない。形だけだから。と説明されました。
銀行の抵当権が設定されている不動産登記簿も見せてもらいました。
実際に請求を受けることがないなら、と了承し、連帯保証人にサインしました。
ところが、その親戚が突然の病気で長期入院し、廃業するしかなくなってしまいました。
当然、銀行への支払いは滞ったようで、銀行から私に請求書が来ました。抵当権がついている自宅が先に処分されるはずではなかったのでしょうか?
自宅がそのままなのに、私のところへ請求がくることが納得できません。」
相談者さんは、連帯保証人として支払いをするしか方法はないのでしょうか?
詳しくみていきましょう。
処分の順番を決めるのは債権者
借金などの債務に対する保証には、抵当権や質権など「物的保証」と言われるものと、連帯保証人のような「人的保証」と言われるものがあります。
どちらもその名の通りで、「物的保証」は負債の保証を「モノ」でする方法、「人的保証」は「人」で保証する方法です。
「物的保証」 | 「モノ」で負債を保証 | 不動産担保、動産担保など |
「人的保証」 | 「人」で保証 | 連帯保証人、保証人など |
この「物的保証」と「人的保証」には、どっちが先につけたかや、どっちが金額が大きいか、などによる順位や優劣はありません。すべてが横並びの関係で、一つ一つ独立した別の保証契約です。
ですから、これらの保証は、どれを先に処分しなければいけない、という決まりはなく、よりお金を回収できそうな方、もっと言うと債権者の好きな方から処分してかまわないのです。
もちろん、不動産の担保の処分と、連帯保証人に対する請求を同時進行で行ってもかまいません。
不動産は売りに出したからと言ってすぐに買い手が見つかるとも限りませんし、競売をするには時間もお金も非常にかかりますので、準備をしている間に連帯保証人にも連絡を取る、というのは、債権者である銀行側から見てみると、効率が良く、まったく不自然なことではないのです。
担保だけでは足りないから保証人が必要
相談者さんの親戚は、「不動産に担保がついているから大丈夫」と説明していましたが、そもそも、不動産の担保だけでは保証効果が足りないと銀行が判断したから、「連帯保証人をつけてくれ」と言ってきたのです。
不動産の担保だけで貸したお金の保証が足りている場合なら、さらに人的保証を付け加える必要はないはずです。
物的保証の保証効果が足りなくなったのは、不動産の価値が下がったか、貸付額が増えたかのどちらかです。
しかし、不動産の価値がいきなり急落することは考えづらいので、貸付の方が増えたと考える方が妥当でしょう。
また、貸付が増えるということは、今ある借金に加えてさらに借金が必要になった、ということですから、親戚の仕事の業績が悪化しているのではないか?と考えることができます。
なお、相談者さんが、この話を、親戚から受けた時に、話を鵜呑みにせず、「なぜ不動産の担保がついているのに、さらに連帯保証人が必要なのだろう?」と疑ってみるべきでした。
それを親戚にではなく、貸付をする銀行に確認してみると、正しい回答が得られたはずです。
銀行は、連帯保証人候補者に対しては、正しい説明をする義務があります。
もし、相談者さんをだますために、銀行が債務者である親戚に話を合わせたのであれば、それは連帯保証契約そのものに瑕疵があるということになり、保証契約そのものが無効になる可能性があります。
「連帯」保証人には、債権者に意見を言う権利はない
近年、「保証人」といえば「連帯保証人」というイメージが定着していますが、もともとは「連帯」ではないただの「保証人」という種類の契約が先にあります。
「連帯」がつかないただの「保証」契約の場合、保証人には以下の利益があります。
①催告の抗弁権(保証人に請求する前に、主債務者本人に対して請求してくださいと言う権利)、
②検索の抗弁権(保証人に請求する前に、主債務者の財産を差し押さえるなりして換金してくださいと主張する権利)、という2つの権利と、
③分別の利益(保証人が数人いれば、各保証人は人数割した一部分のみの返済義務しかない)
しかし、「連帯保証」契約の場合、連帯保証人にはこれらの権利・利益がどれもありません。
ですから、連帯保証契約の方が債権者にとってはメリットが大きいため、債権者は連帯保証契約にしたがるのです。
相談者さんは、親戚の連帯保証人でしたから、残念ながら上記の権利はどれもありません。
なお、商取引に関する保証は、商法によって、単に「保証契約」と書かれていても、すべて「連帯保証」とみなされますので、保証人になるときは注意してもしすぎるということはありません。
もちろん銀行に、反対意見を言ってみるのは構いませんが、それを聞き入れられる可能性は極めて低いと言わざるを得ません。もし、聞いてもらえたとしても、それは銀行の好意によるものでしかないのです。
求償権を得ることができる
ここまでの話では、相談者さんには、悪いことばかりで救いがないように思えますが、1点だけ相談者さんにも、救いとなることがあります。
それは、相談者さんが親戚の代わりに負債を完済した場合、求償権を得ることができる、という点です。
求償権を得た場合、相談者さんが、銀行に代わって親戚に対し、請求することができるようになります。
主債務者に対してはもちろん、他に連帯保証人がいればその人にも請求することができますし、物的保証があればそれを処分する権利を得ます。
つまり、今回の場合は、相談者さんが債権者として不動産を処分することができるようになるのです。
ただし、相談者さんが主体となって不動産を処分する場合は、任意売買をしてくれる仲介業者を探したり、自分で高額な競売費用を負担しなければならない、などハードルが高い点がいくつもあるのが難しいところです。
競売手続きを弁護士に依頼するとなると、弁護士費用もかかってしまいますが、普通の人が自力で競売手続きを行うのはほとんど不可能です。
また、債務者所有の不動産を処分できたとしても、競売ではかなり安価での処分となってしまう上、競売費用もかかるため、満額回収はほぼ無理です。
むしろ費用倒れになってしまう可能性さえありますから、悩ましいところです。
まとめ
このように、相談者さんには、以下の4つのポイントをご説明させていただき、不動産が処分されていなくても、請求が来るのは仕方がないのだとご理解していただきました。
連帯保証人にいきなり請求がくる理由
- 債権者が付けている保証のどれから処分するかを決めるのは債権者であること。
- そもそも不動産担保があるのに、連帯保証人が必要だという意味を考えるべきだったこと。
- 連帯保証人には、「連帯」のついていないただの保証人なら認められている権利が認められていないこと。
- 連帯保証人が支払いをした場合には求償権を得るということ。
すでに債権者から請求を受けている相談者さんにそもそも論をお話しするのは酷ではあります。
が、相談者さんに連帯保証人を頼んできた親戚が、連帯保証債務についてよく理解していれば、相談者さんに対し「先に不動産が処分される」と言い切っては嘘になるとわかっていたはずです。
そうすれば、このようなことは起こらなかったかもしれませんし、相談者さんもハンコを押す前に銀行の担当者から直接話を聞くべきだったと悔やまれてなりません。
それにしても、連帯保証人になるということに関しては、「絶対大丈夫」な状態などありません。
連帯保証人になるということは、自分に請求が来る可能性は「絶対ある」、がそれでもなる、という覚悟が必要です。その覚悟ができない人はなるべきではない、と強く思います。