「今のまま借金を返し続けていても、完済するまでに何年もかかってしまう…」このような悩みをお持ちの人にとって、特定調停が役に立つことがあります。
特定調停とは債務整理の一つで、裁判所に申し立てることによって、借金の元本や利息を減免(減らす)してくれる手続きです。
特定調停は、弁護士に依頼するお金が無い人のための制度なので、3000円程度で裁判所が和解を手伝ってくれます。
実際の手続きでは、比較的少額な事件を担当する「簡易裁判所」で裁判官や調停員に間に入ってもらい、消費者金融などの債権者との交渉の場をセッティングしてもらうという形になります。
借金の減額をしてもらう債務整理の手続きには特定調停の他にも任意整理、個人再生、自己破産などがありますが、特定調停は法律知識のない人でも手続きを進めやすいという特徴があります。
ここでは任意整理と比べた特定調停のメリットやデメリットについて解説させていただきます。
特定調停と任意整理の類似点
特定調停とよく似ている債務整理の方法として、任意整理があります。
なぜ、特定調停が任意整理と似ているか説明します。
借金の利息が減らせる
いずれも手続きの効果として「利息の免除」という形で借金負担の軽減が行われることが多いという点で共通しています。
ここでいう利息の免除というのは、過去に発生して未払いになっている利息や遅延損害金、さらに将来的に発生する見込みの見込みについても支払いを免除してもらえることをいいます。
利息免除が認められれば、手続き後に返済するお金はすべて元本に充当することができますので、借金完済までのスケジュールを大幅に早めることができるでしょう。
消費者金融などの金利は高いですからね。
特定調停によって借金減額をしてもらう場合には、おおむね3年間〜5年間の返済計画に従って軽減してもらった借金を返済していくことになります。
特定調停と任意整理は、債権者の同意がないと成立しない
また、特定調停と任意整理は、いずれも債権者に対する強制力を持たないという共通点があります。
いずれの方法も債権者側から「借金の減額には同意できない」という意思表示がされると成立しません。
特定調停や任意整理で手続きが成立しなかった場合には、個人再生や自己破産などの強制的な方法(債権者が同意しなくても成立します)で借金の減額を認めてもらうことを検討する必要があります。
特定調停は債権者に有利な面が多い?
特定調停は債権者(消費者金融などのお金を貸す側の人のこと)に有利になりやすいといわれることがあります。
これは、特定調停の結果作成される調停調書に「債務名義(さいむめいぎ)」としての効力が認められるためです。
債務名義というのは「その内容に基づいて強制執行をかけることができる」という効力をもつ書類のことです。特定調停の調停調書の他に、裁判所の確定判決などにも債務名義の効力が認められます。
簡単にいうと、特定調停によって手続きが完了した後には、もしその後に計画通りの返済ができない場合にはすぐに強制執行をかけられてしまうということです。
特定調停のメリットと任意整理との違い
ここでは特定調停を選択した場合のメリットについて確認しておきましょう。
費用が安い(弁護士、司法書士費用を節約できる)
特定調停は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼しなくても手続きができるというメリットがあります。
特定調停の費用裁判所に支払う費用=債権者1件につき、印紙代500円+切手代400円=900円
たとえば、3件の消費者金融と特定調停を行うという場合、900円×3件=2700円が必要になるということですね。
任意整理にした場合は、司法書士、弁護士ともに「債権者1件につき2万円〜4万円程度」というのが相場です。
「司法書士だから安い、弁護士だから高い」ということは言えません。
特定調停にかかる費用は収入印紙代や郵便切手代だけです。
裁判所に支払う費用については、以下のように法律で金額が決まっています。
特定調停を自力で行う場合には手続きにかかる費用が非常に少ないというメリットがあることが分かりますね。
合計、1000円〜3000円程度で済むわけですから(債権者の数によって実際に必要になる費用は異なります)
強制執行が停止される
これは特定調停のみのメリットなのですが、給料が差し押さえられている人などの差し押さえが解除されます。
この機能を強制執行停止機能と言って、強制的に給料が差し押さえられていたり、自分の不動産や自動車が差し押さえられている人は、それを解除することが出来ます。
裁判所を通しているからできるのであって、任意整理だと金融機関(債権者)と合意するだけなので、差し押さえ停止(解除)することはできません。
給料口座の差し押さえを解除して一息つきたいって人には、特定調停はかなりおすすめです。
比較的早く手続きが完了する可能性が高い
特定調停はスムーズに進んだ場合には1ヶ月程度で手続き完了になることが多いです。
他の債務整理の方法の場合は早くても3ヶ月、長くて半年以上の期間が必要になるため、少しでも早く手続きを完了したいというニーズのある人は特定調停を選択するメリットがあります。
ただし、裁判所での手続きが必要になる特定調停は平日の昼間に裁判所に出頭する必要がありますので、お昼間に仕事をしている方は注意しましょう(基本的に家族に代理で出頭してもらうという様なことはできません)
裁判所での手続きなので安心感がある
特定調停が裁判所を通した公的な手続きで、任意整理のように個人間の私的な手続とは違います。
交渉のプロセスで債務者側に一方的に不利になってしまうようなことがある場合には裁判官(あるいは裁判所に所属する調停員)が注意をうながしてくれますし、債権者側も公的機関での手続きということで無理な要求をしてくる可能性も低くなる傾向があります。
任意整理でどうしても債権者と合意できない場合は、積極的に活用したいですね。
成功率が高い
特定調停は、基本的に失敗するケースはまれです(現在、裁判所に対して申し立てられる特定調停の90%以上が成立していると言われます)
債権者側としても任意整理や個人再生、自己破産をされてしまうよりも特定調停の方がまだ有利な状態で借金の返済を受けることができるためです。
また、特定調停で債権者側が合意しない場合には調停委員会が職権で出す調停内容で解決を図るケースがほとんどです。
だから成功率が9割と非常に高くなり魅力的ですね
特定調停は何度でも申し立てられる
特定調停には、特に回数制限はありませんので申し立て自体は何度でも行うことが可能です。
ただし、収入の状況などが変わっていないのに何度も特定調停を申し立ててもあまり意味がありません。
特定調停を行った後にどうしても借金の返済ができない場合には、個人再生や自己破産といった借金の残高を大幅に減額してもらえる方法を選択する必要があります。
ただし、個人再生(給与所得者等再生)や自己破産は一度行うとその後7年間は再度行うことはできませんので注意しましょう。
特定調停のデメリット
特定調停には他の債務整理と比較した場合に、以下の様なデメリットがあります。
債権者側の同意がないと成立しない
特定調停は裁判所での手続きですが、債権者側の同意がないと成立しないという特徴があります。
時間をかけて特定調停の手続きを進めたにもかかわらず、最終的には債権者側の同意を得られずに振り出しに戻ってしまうという可能性もあります。
債権者側からの同意を得ることができないケースでは、個人再生や自己破産などの債権者側の同意が必要でない手続きを検討する必要があります。
ブラックリストに登録されるため、新規にローンが組めなくなる
これは他の債務整理の方法(任意整理、個人再生、自己破産)でも同じですが、特定調停を行ってから数年間はブラックリストに登録され、新規にローンを組むことが難しくなります。
ブラックリストというのは正式な用語ではなく、具体的には金融機関の情報ネットワークである「信用情報機関」に事故情報(過去に何らかの形で借金を約束通り返済しなかった、という記録のこと)が登録されることをいいます。
消費者金融や銀行などの金融機関は、ローンの審査を行う際には必ずこの信用情報機関の情報をチェックします。
その際に事故情報があることがわかると高い確率で審査落ちとなってしまうのです。債務整理を行った場合のブラックリスト登録期間は5年間〜10年間です。
この期間は住宅ローンや自動車ローンの申し込み、クレジットカードの発行や携帯電話本体の分割購入なども難しくなりますので注意しましょう。
債権者側に強制執行の根拠が与えられてしまう
特定調停の合意内容は法的な拘束力を持ちます。
そのため、特定調停での調停後、返済計画通りに返済ができなかった場合には、債務者が返済義務を果たしていない責任が追及されやすくなります。
具体的には、特定調停の調停調書(手続き完了と同時に作成される契約書のようなものです)に基づいて、借金の回収を強制執行されてしまう可能性があります。
強制執行をされると給与口座のお金を引き出すことができなくなったり、自動車やマイホームなどの財産がある場合には、最悪の場合は手放さざるをえない状況になることもあります。
特定調停の調停調書には訴訟の確定判決と同じ効力が認められているので、債権者側も遠慮はなくなるわけですね。特定調停が「債権者側に有利」といわれるのはこのような効力があるためです。
任意整理や個人再生の場合には手続き完了後の返済遅延についてもワンクッションおいた交渉が行われるのが普通です。
しかし、このようなメリットが債権者側にあるからこそ、特定調停は合意に至りやすいので、デメリットを理解しつつ活用していきましょう。
債務者に不利な合意になる可能性がある
調停委員が債務整理の専門家ではありません。
そのため、高い利息を引き直し計算しないなど債務者(特定調停の申立人)にとって不利な調停内容になる可能性があります。
借金の利率が高い場合にそれを修正(引き直し計算)して債務整理を行うことは、専門家の間では常識です。というか、引き直し計算は債務整理の主要な武器と言えます。
それを行わないで調停に至ると、どうしても債務者にとって不利な調停結果になります。
特に特定調停は、専門家に頼まず自分でやる人が多いので、不利な調停結果になってもそれに気づけません。
一方で、債権者側は専門家を揃えてくるので、内心では喜びながら、自らに有利な調停結果を受け入れるでしょう。
不利な調停結果でも、一旦受け入れてしまえば、そこには強制力が伴います。
こうした引き直し計算をしないなどの初歩的なミスは、弁護士に依頼する任意整理ではありえません。
だから、ほとんどの人が債務整理と言えば任意整理を利用して、特定調停はあまり利用されていません。
また、どうせ裁判所が絡む債務整理をやるなら、借金が大幅に減る個人再生の方が価値が高いと言えます。
特定調停は位置づけが中途半端すぎるんですよね。
特定調停は自分でやるべきか
特定調停は、「専門家に依頼しなくても自分でできる」という特徴があります。
裁判所に申し立てを行った上で手続きが進むので、要所要所では裁判所の担当者や裁判官から「このように交渉を進めてみてはいかがですか」といったように助言をしてもらう事ができるからです。
ただし、手続きでは裁判所に自分で足を運ぶ必要があるほか、年収や財産を証明する書類や返済計画の話し合いなどもすべて自分で行わなくてはなりません。
裁判所での手続きは平日の昼間に行われます。
お昼の時間に仕事をしているという方の場合は勤務先から許可を得る事ができなければ、特定調停の手続きを進めることが現実的に難しいということもあります。
忙しい現代人は特定調停に必要な、裁判所への出廷という行為が、とても負担になるのです。
また、いったん合意にまで進んでしまった特定調停は、裁判所の確定判決と同じ効果を持ちます。
後からすでに成立した特定調停の内容をくつがえすことはできませんので、どのような内容で特定調停を完了するかについては慎重に判断を行う必要があります。
自分で手続きを行う事に不安があるという方は、任意整理などの別の債務整理方法を司法書士や弁護士に依頼するという選択肢も視野に入れてみると良いでしょう。
どうせ専門家に依頼するなら特定調停は後回し
これまで見てきたように、特定調停は債権者側に有利な制度になっており、借金がある人には不利な面(強制執行されやすくなる、など)が多いです。
専門家に依頼して債務整理(特定調停を含む借金減額の手続きのこと)を行うのであれば、任意整理や個人再生といった別の手段を優先して検討することをおすすめします。
任意整理は特定調停とほぼ同じ費用相場で依頼できる債務整理方法ですが、特定調停よりも債務者(あなたのことです)にメリットの大きい手続きであるという事ができるためです。
任意整理を専門家に依頼した時の費用相場は、債権者1件につき2万円〜4万円です(ほぼ特定調停と一緒)。
例えば、4件の債権者について任意整理を依頼した場合には、8万円から16万円の費用が発生する事になります。
高額な費用に感じる方もおられるかもしれませんが、任意整理の結果として「利息免除」が認められるケースがほとんどです。
ここで免除してもらえる利息には過去に発生して未払いになっている利息や遅延損害金だけではなく、将来的に発生する予定の利息も含まれます。
つまり、任意整理成立後には借金は「無利息」という状態になるわけですね。
多くの場合は司法書士や弁護士などの専門家に費用を支払ったとしても、メリットがあります。
面倒な債権者との交渉の手続きもすべて依頼することができますので、法律的な知識に自信がないという方や忙しい方は、専門家に依頼するのが便利です。
そして、弁護士など法律の専門家に、自分にあった債務整理方法というのはどれなのかといった点から相談してみると良いでしょう。