特定調停は、弁護士などの専門家に依頼しなくても自分でできる方法として人気があります。
手続きはすべて自分で行う必要がありますが、裁判所の担当者が疑問点にはそのつど答えてくれますので、慎重に進めていけばそれほど問題はないでしょう。
ここでは、特定調停がどのような流れで進んでいくのかについて解説させていただきます。
裁判所窓口に相談
特定調停は「簡易裁判所」で行われます。
そのため特定調停の手続きは、この簡易裁判所に相談することから始めることになります。
あなたがどこに住んでいるかでどこの裁判所に申し立てを行うかは決まりますので、管轄の裁判所をチェックしておきましょう(裁判所のホームページで確認できます)
また、債権者側と「トラブルになった時にはこの地方の裁判所で解決する」という特定の取り決め(裁判所の管轄合意)がある場合には、その取り決め通りの裁判所に申し立てを行う必要があります。
ただし、契約時に遠方の裁判所で管轄合意をしていても、債権者に有利な状況で強引に結んだ契約条項と見なされるので、自分の住所を管轄する裁判所に申し立てれば大丈夫なことが多いです。
また、管轄する裁判所の取り決めについては、きちんとした理由があればほかの裁判所で裁判をやってよいという競合的管轄と解釈できる余地が多いので、遠方の裁判所の管轄合意があったとしても、ご自分の住所近くの裁判所にまずは相談してみるべきです。
申立書の作成
管轄の裁判所を確認したら、窓口に用意されている「特定調停申立書」に必要事項を記入して提出します(特定調停申立書はインターネットでダウンロードすることもできます)
実際の書類の作成方法
特定調停の申し立てに必要な書類は上の3つだけです。
書き方も簡単なので順番に見ていきましょう。
財産状況等明細書の書き方
特定調停申立書には、あなたの収入や財産の状況、債権者の名前や債務額を示した一覧表を添付する必要があります。
からPDFをダウンロードして印刷してください。
1ページ目の書き方を簡単に説明しました。
名前を書いて、預金などの資産を持っていたら記入していくだけです。
2枚目も大体同じです。
2枚目は借金の内容と借金の理由ですね。
意外と簡単なのです。3枚目以降に家族の状況とかあなたの収入を記載する欄がありますが、あまり迷わず書けると思います。
権利関係者一覧表の書き方
次に権利関係者一覧表の書き方です。まず、下のURLからダウンロードしてください。
この権利関係者一覧表はあなたの借金の内容を申告するものです。
消費者金融やクレジットカード会社など、あなたがお金を借りている先の情報をHPなどから調べ、記入してください。
特定調停申立書の書き方
いよいよ特定調停申立書の作成です。
と言っても、ここまでで準備した書類を見ながら入力していくイメージなので、あまり難しくありません。
これで自分で作らなくてはいけない書類が完成しました。
その他の必要書類として以下のものが必要になる場合があるので、用意しておいてください。
- 収入に関しては源泉徴収票や給与明細など、財産の状況としては土地や不動産の登記簿謄本(賃貸の場合は賃貸借契約書)が必要になることもあります。
- 借金をするときに作成した契約書などがある場合にはそちらも添付します。
- 申立書は裁判所用、債権者用、自分用(任意)の3つを用意しましょう。
裁判所で申し立ての手続を行う
申立書の準備ができたら、簡易裁判所の窓口で提出します。
このとき、収入印紙を購入して手数料を納付します。
手数料は減額を申し立てる金額(訴額といいます)によって変わります。
ただし、訴額は特定調停を行う前に確定することは難しいので、最低限の金額(500円)で提出しても問題のない裁判所が多いです(この点は裁判所によって扱いが違うこともあります)
なお、収入印紙は債権者1件ごとに支払います。
債権者に通知を送るための郵便切手も購入して提出する必要があります。
郵便切手は1450円、1社債権者が増えるごとに250円が追加で必要になります。
例えば、3社に対して特定調停を申し立てるときの費用は以下のようになります。
費用の種類 | 金額 |
---|---|
収入印紙代 | 500円×3社=1500円 |
郵便切手代 | 1450円+250円×2社=1950円 |
合計の金額 | 1500円+1950円=3450円 |
裁判所から債権者に連絡する
特定調停の申し立てが認められると、裁判所から債権者に対して「この人は特定調停の申し立てをしたので、以降は取り立てを中止してください」という連絡が行きます。
申し立てを行う時に債権者一覧に借金の金額や相手先の名前などを記入していますが、この時点で裁判所から債権者に対して取引履歴の提出を求めてもらうことができます(そのため、最新の正確な借金の金額を把握することができます)
債務者の呼び出し
特定調停を行う相手方の債権者が確定したら、裁判所から「期日呼出状(きじつよびだしじょう)」があなたの自宅に届きます。
期日呼出状は「この日に裁判所に出廷してください」という連絡のことです。
もし指定された日が都合(つごう)が悪い場合にはすぐに日時変更の連絡をしましょう(裁判所への出廷日を変更できるのか?と思うかも知れませんが、早めに連絡すれば変更してもらうことは可能です)
最初の期日(裁判所での調停手続きが行われる日のこと)では、あなた(債務者)と調停委員の2者で打ち合わせを行います。
ここで債権者側の意向や債務の金額、どのぐらいの金額であれば毎月返済しているのかなどを相談することになります。
大切なことは「このぐらいの金額であれば無理なく返済していける」という金額を伝えることです。
見栄を張って大きめの返済金額を申告してはいけません。特定調停では、無理な返済計画を作って後で返済できなくなった場合は、自分が不利になります。
毎月の返済予定額は、無理なく返済していける金額を伝えることが重要
特定調停が完了すると「調停調書(ちょうていちょうしょ)」という書類を作成しますが、もし調停調書に反して支払いが遅れてしまうと、債権者側はすぐに強制執行という手段に訴えることができてしまうのです。
強制執行があるので、無理な返済計画はいけないのですね。
特定調停完了後に支払いが遅れてしまうことは絶対に避けましょう。
そのためには現実的な返済計画をこの時点で調停委員に伝えておくことがとても大切です。
債権者との交渉
第2回目の調停期日で、債権者側も裁判所に呼ばれて調停手続きが行われます。
とはいっても債権者側とひざを突き合わせて交渉するということではありません。
債務者(あなた)と債権者はそれぞれ控え室があり、その間を調停委員が行き来して話を詰めていくという形で調停は行われます。
借金を減らしてもらう立場ですから、できれば債権者には会いたくないですよね。特定調停はそうした気持ちに配慮された制度となっています。
調停がまとまると調停調書を作成して特定調停は完了ということになります。
特定調停で合意するコツについてはリンク先に記載していますので、ご参照ください。
債権者が出廷せず、「17条決定」を希望する場合もある
また、調停期日に出廷してこない債権者もいます。
出廷しない債権者は「裁判所が出す調停に従います」という意思表示をしている債権者です。
この場合は裁判所はあなたの返済可能な金額と債権者側の同意するであろう「落とし所」を考慮し、今後の返済計画を決定してくれます。
これを「17条決定」と呼ぶことがあります(民事調停法という法律の17条に規定されているルールであるためこのような名前で呼ばれます)
ただし、17条決定は債権者側が異議を申し立てた時には成立しません。
債権者側が同意する見込みの少ない返済計画をあなたが提出した場合には裁判所は17条決定を出さずに調停を終了することもありますので、裁判所側が出してくる調停案を参考にするようにしましょう。
調停調書の作成と支払いスタート
調停調書の作成または17条決定が決まると、以降は減額してもらった借金の返済がスタートします。
万が一この返済が遅れてしまうと、債権者側は直ちに強制執行などの措置を取ってきますので注意が必要です(債権者側は調停調書を根拠に裁判手続きに訴えることができます)
特定調停の流れについてのまとめ
今回は、特定調停がどのような流れで進んでいくのかを簡単に解説させていただきました。
特定調停は、正しく申し立てを行って裁判所に手続きを開始してもらえさえすれば、後は調停委員の指示に従って進めていけば問題はありません。
住所の近くの簡易裁判所に相談することがまず大事です。
もし呼び出し期日に出廷しないなどの対応を取ってしまうと裁判所の心象(しんしょう)を悪くしてしまうこともあります。
手続きが開始したら調停委員に疑問点を確認しながら、誠実に手続きに参加していく意識を持つことが大切です。